プレスリリース
平成30年5月5日 北國新聞朝刊
金沢の職人と白峰漁協
藩政期から伝わる金沢の伝統工芸品「加賀竿」から欧米の市場を狙う竿が生まれた。唯一の職人が白山白峰漁協(白山市)と手を組み、源流域にすむ40センチ超の大型イワナに耐えるよう工夫を凝らした結果、海外の渓流釣りにも対応できる強度が備わった。武士の鍛錬から生まれたとされる歴史性や、石川ならではの色漆の輝きも武器に、海外の太公望の心を一本釣りにする。
出来上がったのは、竿と糸、毛針のみを使う日本伝統の「テンカラ釣り」用の竿で、加賀竿の伝統を守り続けるただ一人の職人中村滋さん(60)=金沢市光が丘2丁目=が白山白峰漁協の協力を得て制作し、「白山テンカラ竿」と名付けた。
中村さんは昨年春の北陸フィッシングショー(北國新聞社後援)で、漁協理事の鶴野俊哉さんと出会った。中村さんは白山麓の旧鳥越村出身で、「白山の源流域で使えるテンカラ竿を作ろう」と意気投合した。
それまで作っていたテンカラ竿は20~30センチ級のヤマメやイワナが主な対象で、白峰の大型イワナの引きには耐えられなかった。
昨夏から秋にかけ、中村さんが試作品を作り、鶴野さんら漁協メンバーが白峰でテストして改良を繰り返した。素材を吟味し、鹿児島県産「布袋竹」の中でも、成長して4年の中身が詰まった丈夫なものを採用した。
木や茂みが多い山中で使いやすいよう長さは従来のテンカラ竿より約30センチ抑え、2メートル70センチ~2メートル85センチとした。重さは120~130グラムと、成長して1年の竹を使う従来品とほぼ同じだ。
県立美術館学芸担当課長でもある鶴野さんが、白山の白銀と成巽閣をイメージした群青を、色漆であしらうデザインを提案した。
加賀毛針や加賀竿を扱う目細八郎兵衛商店(金沢市安江町)の目細勇治社長によると、欧米の釣りファンの間で近年、テンカラ熱が高まっている。欧米伝統のフライ・フィッシングに似ているが、テンカラはリールすらも使わず、究極のシンプルさが注目されているという。
同店にはこの1年で2人の欧米人客が訪れ、テンカラ竿を買い求めた。新しい竿について目細社長は「強度は大きな魅力。大型トラウトなどの釣りが盛んな欧米からも引き合いがあるのではないか」と期待する。
加賀竿の認知度も高まっている。金沢市で4月5日に開かれた生物文化多様性に関する国連大学の国際シンポジウムでは、石川県立大の柳井清治教授が「加賀竿は武士の鍛錬から生まれた石川の伝統文化だ」と紹介し、注目を集めた。
竿は5万円前後でオーダーメイドする。中村さんの「加賀竿工房白峯」と白峰漁協、目細八郎兵衛商店で注文を受け付ける。中村さんは「カーボン製の竿と違い、味わいのある当たりと品格を感じられる加賀竿を世界に発信したい」と話した。
写真キャプション上
出来上がった白山テンカラ竿の出来栄えを確かめる中村さん=金沢市光が丘2丁目の工房
写真キャプション下
白銀と群青の色漆を施したデザイン
加賀竿
金沢伝統の和竿。加賀藩が鍛錬のため藩士に奨励したアユ釣りで使われたのが起こりとされる。三つの竹製部品を継いで組み立てるつくりで、漆を重ね塗りして仕上げる。昭和30年代後半からカーボン製の竿が普及して職人が大きく減った。
(以上原文引用)
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